「危険運転」と「過失運転」線引きは 猛スピードの車による事故なぜ過失…法の壁と遺族の思い【大分】

2023年12月04日 21:00更新

猛スピードの車による交通事故。
この5年間でも、大分や栃木、福島などで時速100キロを超える猛スピードの車による死亡事故が起きています。
このうち最もスピードが出ていたのが大分市で起きた事故で、時速は194キロ…
さらに、今年に入って栃木県では時速160キロ以上出ていた車が事故を起こしました。
このように時速100キロを超えるような事故でも法律的にはなかなか危険な運転とは認めてもらえない現状があるといいます。
明らかな猛スピードなのになぜ「危険運転」での処罰が難しいのか…法律の壁と向きあう遺族の思いを取材しました。


 

おととしの2月に大分市大在で起きた交通事故。
乗用車を運転していた市内に住む小柳憲さんが交差点を右折しようとしたところ前から来た時速194キロの車と衝突し小柳さんが亡くなりました。

検察は当初、相手の運転手を「過失運転致死罪」で起訴しました。
しかし、遺族による署名活動などの結果、検察は去年12月、危険運転致死罪への変更を地裁に請求し認められました。

刑の上限は過失運転致死罪が「懲役7年」なのに対して危険運転致死罪は「懲役20年」とより重い刑になっています。

ーー事故で亡くなった小柳さんの姉 長文恵さん
「故意に悪質で無謀で危険な運転をしたのに不注意の事故だったと終わらせられるのは遺族感情として納得できるものではない」


 

栃木県に住む佐々木多恵子さん。
佐々木さんはことし2月、夫の一匡さんを交通事故で亡くしました。
一匡さんは午後9時半ごろ宇都宮市の国道をバイクで帰宅中、時速160キロ以上で走行してきた車に追突されました。


 

事故の後、佐々木さんは検察からある説明を受けたといいます。

ーー佐々木多恵子さん
「追突するまで(被告の車が)真っすぐ走れている。なので車を制御出来ている。運転を制御出来ているということになるので危険運転にはあたらない。そういう風にはっきり言われた」

その後、宇都宮地検は車を運転していた男を「危険運転」ではなく「過失運転」で起訴します。
160キロを超えるスピードを出していながらなぜ「過失」で起訴されたのか。

危険運転を成立させる条件の1つに「進行を制御することが困難な高速度」というものがあります。
栃木の事故では被告の車が車線を外れずに走っていたため「車を制御出来ていた」と判断されたのです。

ーー佐々木多恵子さん
「何回聞いてもどう思っても制御できていないから車をぶつけたのではないかって。制御というのはまっすぐ走ることだけではなくてブレーキをかけるということも制御なのに何を言っているのかと思って」

佐々木さんは「危険運転致死罪」の適用を求め8月末、宇都宮地検に約7万人分の署名を提出。
大分の遺族などとともに「高速暴走・危険運転被害者の会」を立ち上げ法律の運用見直しを訴えています。

ーー佐々木多恵子さん
「不幸にも誰か私と同じような立場になった人がいたとしたら捜査がきちんと行われているかどうか警察、検察にきちんと確認してそれでも法が運用されていないのであれば(危険運転致死罪の適用を)訴えていくべきだと思う」


 

大分と栃木の事故はどちらも法定速度を大幅に上回る猛スピードの事故です。
「危険運転致死傷罪」の適用のハードルが高いのはなぜなのか…

「危険運転」を認める要件の1つに「進行を制御することが困難な高速度」というものがあります。
この「制御困難」というのがポイントです。

栃木の事故では時速160キロ以上出ていても同じ車線を走れていたので「制御出来ていた」と判断されました。


 

なぜ、危険運転致死傷罪に「制御困難」という要件が付いたのか。
制定に関わった弁護士は「過失による事故」と明確な線引きが必要だったと話します。

ーー危険運転致死傷罪の制定に関わった高井康行弁護士
「制御困難な高速度という構成要件を議論する時に関心事であったのはスピードオーバーによる通常の過失事故というのはけっこうある。本来7年以下の懲役あるいは禁固で処理しなければいけない(スピードオーバーの)事故がすべて(危険運転として)重い処罰を受けることになって、これは人権保障機能を害するということになる」

一方、捜査関係者によると大分市の事故では運転手が「何キロ出るのか試したかった」と供述しています。
高井弁護士はその点を考慮した上で次のように指摘します。

ーー危険運転致死傷罪の制定に関わった高井弁護士
「道路を194キロで走ったということは、重大な事故が起きてもやむを得ないという気持ちが無ければそういう走り方は出来ないと思う。そこを十分に捜査していけば本来は殺人あるいは傷害致死で起訴できた事案だと思う」

「危険運転致死傷罪」については自民党のプロジェクトチームが現在、その在り方を議論しています。
高井弁護士は「遺族の気持ちを受け止めた上で新しい法律を作ることや既存の法律の一部を改正することが大切」だと話していました。

 

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