組体操も騎馬戦もない? 昔と令和の「運動会」消えた名物種目と新たな取り組み 大分
定番土産の臼杵煎餅 ショウガを自社栽培
臼杵市のお土産品の定番「臼杵煎餅」。小麦粉で作られた生地に、ショウガと砂糖を混ぜ合わせて作られた蜜を塗って作られる。
パリっとした食感と、甘いショウガ風味が特長の、大分県を代表する銘菓の一つ。そんな臼杵煎餅を作る老舗企業がショウガと向き合った新しい事業に乗り出すという。挑戦に密着した。
臼杵市にあるショウガ畑。収穫しているのは後藤製菓の5代目、後藤亮馬さんと父の重明さん。臼杵煎餅を通じて、長年ショウガに向き合ってきた後藤製菓は2022年から、ショウガの自社栽培に乗り出している。
ショウガと向き合うきっかけは「廃棄ゼロ」
創業100 年を超える後藤製菓。 5 代目の亮馬さんは、コロナ禍で事業が落ち込んでいた2021 年、社長に就任。事業を立て直すため新商品の開発など、積極的に取り組んできた。先代も、その手腕に期待を寄せている。
――重明さん
「チャレンジするのはいいこと。私がカバーできる。想像以上に頑張っている。すごいなと。私が口出したらやりにくいだろうから、好きなように。」
転機となったのは、臼杵煎餅の製造工程で廃棄していた「ショウガの搾りカス」の活用。パウダーに加工して販売することで、年間およそ2 トンの廃棄をゼロにした。この取り組みが農林水産省の「フードアクションニッポンアワード2020」を受賞。挑戦が実を結び、さらにショウガと向き合うきっかけになったという。
――亮馬さん
「有機JAS の生姜、生産者数限られる。安定供給のためにも、自社で初めて生姜の栽培に乗り込んだ。100 年前から育まれてきた、臼杵の生姜、それも有機生姜を活用して、多数の商品に我々の加工技術を注いで、商品開発をしていく」
新ブランドに大分ならではの力を
この日、亮馬さんが訪れたのは、別府市の「天然坊主地獄」。温泉の蒸気を使った地獄蒸しは別府の名物の一つであるが、ここで蒸しているのは名づけて「地獄蒸しショウガ」。体を温め、免疫力を高めるとされるショウガだが、実は、長時間蒸すことでその効果がさらに高まるという研究結果が…… これを新商品に活用する。
地元産の有機ショウガを核とした新たな商品開発に向けて、後藤製菓は新しいブランドの「生姜百景」を立ち上げた。その主力商品となるのが地獄蒸しショウガから作るエナジードリンクだ。
――亮馬さん
「まずはできるトライを。100 年続いた意味、これから残したいものは?本質的なところ考え直して、考え抜いた。それで生まれたのが「生姜百景」と言う新規の事業」
ショウガの魅力を丸ごと商品に
この日実際に販売する商品の製造に初めてとりかかった。
「おはようございます。ジンジャーショット初めて本製造します。本当に良い商品ができたと思っているので、気合を入れてがんばりましょう」
当初、ペースト状にした地獄蒸しショウガから搾り汁を分離できないという課題があったが、丸ごと煮詰めるという発想に転換することで解決。ショウガの魅力が丸ごと詰まった、ジンジャーショットが完成した。
これが100年以上続く後藤製菓の新たな一歩となるが、亮馬さんはその先にさらに大きなビジョンを描いている。
欠点の連作障害を強みに
実はショウガは「連作障害」が起きやすいとされるが、後藤さんはその課題をプラスに捉えている。
――亮馬さん
「生姜百景の事業を成長させる過程で、有機ショウガの作付面積が増えていく。そこには、通常の4 倍の面積を保有しなければいけない。それがすべてオーガニックを追求することによって、オーガニックな農地として広がっていく。ショウガを植えた後は、ほかの農産物を作ることも、お花とか緑肥を植えることいろんな活用方法がありますので、生姜百景、有機ショウガを軸に人にも自然にも温かいたくさんの風景を紡いでいきたい。」
かつてショウガの一大産地と言われた臼杵で再びショウガ栽培を広げていこうとしている。
現在の事業を見直して新規事業につなげる
その亮馬さんには頼もしい助っ人たちが現れた。大分の官民共同プログラム「ユケムリネクスト」のバディとして後藤製菓をサポートする商工中金。若手を中心に専門チームを立ち上げ、財務分析やヒアリングの結果をレポートにまとめ、発表した。ジンジャーショットの成功のために必要なこと…それは現在の事業全体の見直しだ。
例えば臼杵煎餅の生産体制。手作業ゆえに在庫の管理が難しく、急にまとまった発注が入ると対応できないケースもあったという。新規事業に力を入れるためにも、まずは本業である臼杵煎餅の生産体制や資金繰りを改善し、経営をより安定させることが重要。実践的な提案は、後藤さんに多くの気付きをもたらした。
――亮馬さん
「我々のことを理解してくださったのは、すごく感じました。このような素晴らしい素敵な資料まで落とし込んでいただき、ありがとうございます。既存事業の改善と、新規事業の拡大は並行してやっていきたい。不安はないですね。期待とワクワク」
――商工中金の担当者は
「リスクを極小化したい。金融機関らしいアプローチを。事業性評価を行った。足腰強ければ、いろんなチャレンジができる、そのために何かできないかと言うことでやらせていただいた」
そして7か月のプログラムを終えた亮馬さん。社内の意識改革や若手人財の採用など、変化に対応できる強い組織づくりにも着手し今年2月、その成果をまとめて発表した。
――亮馬さん
「オール大分でご支援いただきましたので、次は早く私たちももっと会社を成長させて、メンターバディ側として次の次世代の起業家、もしくは起業の方たちにご支援が同じようにできるように頑張っていきたいと思う」
地元で愛され続けている後藤製菓の5代目は次の100年を見据えて一歩ずつ歩みを進めている。