兵士の“寄せ書き日の丸”遺族のもとへ「80年の時を経て生きた証が返ってきた」大分
元エンジニアの挑戦
大手電機メーカーでエンジニアとして活躍していた栗田貴宏さん。30歳を迎えたことを契機に脱サラして、実家のミツバ農家を継ぐ決断をする。
エンジニアとしての経験を生かし、新しい水耕栽培の実用化に挑む若きアトツギを取材した。大分県では2022年からアトツギを対象にしたプログラム「GUSH!」を開催し、新商品の開発や新規事業の具体化を支援している。
今年度は県内のアトツギ9人が参加し、家業の未来を担うべく奮闘している。
その中で今回は「祖父と父親の実績にプレッシャーを感じながら、闘志を燃やすアトツギ」を紹介する。
西日本トップクラスのミツバ栽培
訪ねたのは大分県豊後大野市の育葉産業。ハウスの中で栽培されていたのは「ミツバ」だ。育葉産業は約73Rの敷地でミツバ62万株の水耕栽培を行っている。
生産量は西日本でもトップクラス、ブランド名を「美水みつば」と名付けている。
「父が輝いて見えた」
3代目となるのが栗田貴宏さん、前職は大手電気メーカーのエンジニア。脱サラし、実家を継ぐきっかけは何だったのだろうか?
――栗田貴宏さん
「1番は、元々父からアトツギに関して相談されていた。30歳になった節目と、前の会社で優秀な人はたくさんいたんですけど、父の方が輝いて見えてた」
父も元エンジニア
育葉産業のミツバ栽培は貴宏さんの祖父・一郎さんが始めた。
一郎さんから受け継いだ父、洋蔵さんも実は元エンジニアという経歴の持ち主で、エンジニア時代の知識を農業にも活用し、栽培技術や設備を発展させ、西日本随一のミツバ農家へと成長させた。
頭の片隅に家業のこと
そんな中で育ってきた貴宏さんは社会人になっても、頭の片隅には家業のことがあったという。
――栗田貴宏さん
「どっちの人生がいいのかっていうのはその時は決断できなかったが、働いてるうちに父への憧れっていうのが出てきたのが本当大きかった」
新しい取り組み
2021年に帰郷し、尊敬する父からミツバ栽培のノウハウを学びつつ新しい取り組みにもチャレンジしている。
――栗田貴宏さん
「今、大きな取り組みとしては、プロバイオポニックスという、栽培方法にチャレンジしてる最中」
通常、水耕栽培はほぼ100%、化学肥料を使って行われる。有機肥料を水に入れると、土の中と同じようには分解されず作物の根が腐ってしまうからだ。
この問題の解決に期待されるのが「プロバイオポニックス」。微生物の力を借りて水中の有機質を作物が吸収できるよう作り変えるというもの。水耕栽培においても有機肥料が使えるようになるという画期的な方法だ。
国の「みどりの食糧システム戦略」でも2050年までに化学肥料の使用量の30%低減を目標としていて、プロバイオポニックスはその目標達成の一手としても期待されている。
ただし、その方法はまだ確立されておらず実用までのハードルは高いという。
化学肥料の99%は輸入に依存
――栗田貴宏さん
「これが今、(試験的に)微生物を育ててる段階。昨年の4月、5月ぐらいにもう少し広い面積で挑戦はしたが失敗した。今いちから見直そうということで実験段階」
実は日本で使われている化学肥料の99%は輸入に依存しているそうで、そうした背景も取り組みの理由となっている。
――栗田貴宏さん
「いつ(化学肥料が)使えなくなってもおかしくない状態ということで今後、綺麗な美しいミツバを皆さんに届けられない可能性が出てくる。その持続性の問題を解消した取り組みとして今回、挑戦してる次第です」
そんな貴宏さんの挑戦を父親の洋蔵さんはどのように見ているのか?
――洋蔵さん
「今までの経験を生かして(息子から)新しいことを学ぶことも多かった。独りよがりでやってしまうとこもあるんですけど、それも若さかなと。自分も若い頃を思い出せば、似たようなことをやった。本人も期待に応えよう頑張ってると思いますし、楽しくやってほしい」
――栗田貴宏さん
「自社単位で言えば、栽培してるミツバのほとんどがプロバイオポニックスでできたらなと。それができた暁月には栽培ノウハウみたいなのをしっかりデータ化して。他の農家さんにも広められるようにできたらなと考えています」
今回の貴宏さんの事業アイデアは今年度の「アトツギ甲子園」の九州・沖縄ブロックでも評価され、今月20日に開かれる決勝大会に進出する予定だ。
プロバイオポニックスが持続可能な水耕栽培の新しい手法として普及するか。今後が注目される。